「1つのキャリアを極める」ことは大変難しいことですが、AIなどの技術の発展が目覚ましい昨今では、長い時間をかけてキャリアやスキルを極めている間に、環境の変化によって、その価値自体がなくなってしまうことも起こりかねません。
そこで重要なのがキャリアをかけ算したり、スキルを掛け合わせたりするという発想です。
- 自分の仕事の将来性に不安を感じる
- 今の仕事以外にも、やってみたい仕事がある
こんな気持ちを抱えている方にとって、ぜひ知っていただいたいのが「キャリアのかけ算」というキャリア開発の考え方です。
この記事では、実際にキャリアを掛け合わせている私が、「キャリアのかけ算」の要点をコンパクトにお伝えします。
この記事でわかること
- 「キャリアのかけ算」の概要
- 「キャリアのかけ算」の実践方法
「キャリアのかけ算」の考え方を知ると、今のキャリアやスキルを見つめ直すきっかけをつかめるはずです。
キャリアの掛け算とは?
キャリアの掛け算とは、「人生の中で複数のキャリアを経験することで、自分の希少性を高めて市場価値を上げる」キャリア開発の手法です。
リクルート出身で都内の公立中学校初の民間人校長も務めた藤原和博さんが、人生100時代におけるキャリア形成の在り方として提唱されています。
私自身を例に挙げると、私は元々はテレビ局の「記者」として働いていて、今は製造業で「広報」の担当をしています。つまり、「記者×広報」という2つのキャリアのかけ算をしていることになります。
ですが、藤原さんに言わせれば、かけ算するキャリアが2つでは不十分。最終的には、3つのキャリアをかけ算して100万人に1人の人材になるべきだと言っています。
藤原さんのおっしゃている「キャリアのかけ算」論のエッセンスは次の通りです。
「キャリアのかけ算」の概要
- 20代:1つ目のキャリアで1/100の人材になる
- 30代:2つ目のキャリアで1/100の人材になる
- 40代:3つ目のキャリアで1/100の人材になる
- 一つのキャリアで1/100の人材になるには、約1万時間(5年∼10年)必要
- 「1/100の人材」になれるキャリアを3つ作ることで、「1/100万人の人材」になる
100万人に1人の人材というのは、希少性で言えば、オリンピックのメダリストに匹敵するそうです。実際は、一つの競技(キャリア)の中でだけで/100万を目指すほうが、圧倒的に難しいですが。
それでも。「一つのキャリアで1/100になることを3回繰り返せば、計算上はオリンピックのメダリストと同等の希少性」が持てるというのが、この「キャリアのかけ算」理論の面白いところです。
しかし、「一つのキャリアでも、1/100の人材になるのが、そもそも難しいのでは?」と思われた方もいらっしゃると思います。
実は「キャリアのかけ算」理論でいうところの「1/100の人材」というのは、同じキャリアを歩んでいる100人の中で一番になることではありません。
例えば、「無作為に様々な仕事をしている100人がいた場合に、その中で比較したら自分が一番になれるキャリアをつくる」ということなのです。
例えば、私が記者をしていた時、「同じ記者100人の中で、自分が記者として一番有能だ」と思ったことはありません。
ですが、「様々な仕事をしている100人の中であれば、私が一番上手に記者としての仕事ができる」という自信はありました。
これが「一つのキャリアで1/100の人材になる」ということです。
同じキャリアを歩んでいる100人の中で、一番になる必要はないのです。
これなら、時間をかければ、できそうですよね。藤原さんは一つのキャリアで1/100の人材になるのは、約1万時間(5年∼10年)の修練が必要だと言っています。
キャリアの掛け算のメリット
人生の中で複数のキャリアを経験することには、たくさんのメリットがあります。
私自身が2つ目のキャリアを歩み始めて感じているメリットは、次の通りです。
キャリアを掛け算するメリット
- 自分の可能性に気づく
- 自分に自信が持てる
- 専門性が深まる
- 市場価値が高まる
特にメリットだと感じているのは、「自分の可能性に気づく」点と「自分に自信が持てる」点です。
キャリアをかけ算するということは、長年経験してきた仕事から一旦離れて、これまでとは違う仕事にチャレンジするということです。
私の場合、34歳の時に記者から広報に転職しましたが、その時は「自分に広報の仕事が務まるのか」と不安でいっぱいでした。
それでも何とか転職を果たして、2つ目のキャリアに挑戦できています。
この経験は、私の人生の中で非常に大きな自信になりました。長年、一つのキャリアを続けていると、それ以外の仕事に不安を感じるようになります。ですが、この経験で「私にもできることは、まだまだたくさんある」と、自分の可能性に気付くことができました。
「キャリアのかけ算」の実践方法
私の経験を交えて、キャリアのかけ算をする際に重要なポイントを3つ、お伝えします。
キャリアを掛け算するポイント
- 自分のスキルを把握する
- 第一のキャリアを完成させる
- 第二のキャリアは、第一のキャリアで培ったスキルを活かす
- 第三のキャリアは、第一/第二とは遠いキャリアを選ぶ
①:自分のスキルを把握する
「キャリアのかけ算」をしていくためには、まず、現状の自分のスキルを把握することが大切です。
自分はどんなスキルを持っているのか、すべて洗い出してみましょう。
私でしたら、記者時代に持っていたスキルとしては、ライティングスキル・動画編集スキルが挙げられます。
自分が持っているスキルを把握することが、第二のキャリアを選ぶ指針になります。
②:第一のキャリアを完成させる
「キャリアのかけ算」をしていく最初のステップは、まず第一のキャリアで1/100の人材になることです。
そのために、自分が持っているスキルが、どの程度のレベルにあるのかを評価します。
私であれば、無作為に集められた100人の中で、「自分のスキルが最も高いと自信を持って言えるかどうか」を自問自答しました。
ここで、「1/100の人材」に到達していないスキルがあれば、第二のキャリアに踏み出すにはまだ時期尚早ということです。
私が「キャリアのかけ算」理論を知った段階では、まだ記者としては未熟で、自分が「1/100の人材」だとは到底思えませんでした。
当時はまだ転職することを考えていませんでしたが、記者としての専門性を高めたいと思っていたので、特にライティングスキルと動画編集スキルを意識して、仕事に取り組むようになりました。
③:第二のキャリアは、第一のキャリアで培ったスキルを活かす
第一のキャリアで「1/100の人材」になれば、次は第二のキャリアを選びます。
その際に重要なのが、第二のキャリアには自分のスキルを活かせるキャリアを選ぶことです。
なぜなら、第一のキャリアで培ったスキルを活かせないキャリアをに選んでしまうと、せっかく培ったスキルのレベルが落ちてしまうからです。
例えば、「記者」をしていた私は第二のキャリアに「広報」を選びました。
記者時代に培ったライティングスキルや動画編集スキルが活かせると考えたからです。
例えば、私が第二のキャリアに「料理人」を選んでいたら、これまでのスキルを発揮する機会はあまりなかったでしょう。
もちろん、第一のキャリアで培ったスキルをすべて生かせるキャリアは、ほとんどありません。しかし、1つや2つでも、すでに自分が持っているスキルを活かせるキャリアの方が、かけ算をする効果が大きいと思います。
④:第三のキャリアは、第一/第二とは遠いキャリアを選ぶ
第三のキャリアを選ぶことについては、私はまだ経験がありません。
ですが、「キャリアのかけ算」理論の提唱者である藤原和博さんは、第三のキャリアは第一/第二のキャリアからは遠いキャリアを選ぶことを推奨しています。
なぜなら、その方が希少性が高まるからです。
例えば、藤原さんのキャリアは次のようなものです。
藤原和博さんのキャリア
- 第一のキャリア:営業とプレゼン
- 第二のキャリア:マネジメント
- 第三のキャリア:都内の公立中学校初の民間人校長
確かに、第一/第二のキャリアは比較的近いですが、第三のキャリアでは大きく離れた業界に踏み出しています。
藤原さんによると、3つのキャリアを考える際は、できるだけ大きな三角形をつくるイメージを持つのが大事だそうです。
第三のキャリアが第一/第二のキャリアから離れていればいるほど、三角形の面積は大きくなり、これが希少性になるということす。
まとめ:「キャリアのかけ算」で自分の可能性を広げる
私は「キャリアのかけ算」という考え方を知り、それを実践したことで自分の可能性が広がりました。
新しい仕事に出会うことができましたし、新しいスキルを身に付けることができたからです。
自分のキャリアを強く意識することで、「会社に所属することはあくまでキャリア実現のための手段」という意識も持てるようになりました。
人生100年時代と言われる昨今においては、複数のキャリアを磨いていく時間が十分にあります。
自分のキャリアに迷っている方は、「キャリアをかけ算」するチャンスですよ。