2021年10月、情報処理推進機構は、「DX白書2021」を発行しました。
この報告書には、DX(=デジタル・トランスフォーメーション)にかかわる国内外の最新動向がまとめられています。
この中で明らかになった重要なポイントのひとつは、日本企業のITリテラシーに関する社内教育の遅れです。
多くの日本企業は、IT化を進める人材の重要性は認識しているものの、そうした人材を社内で育成することには消極的ということがわかりました。
高度情報社会と呼ばれる現代において、ITリテラシーを習得することは、すべてのビジネスパーソンにとって必須となっています。
しかし、DX白書を読むと、そのために頼ることができるのは、企業ではなく、自らの学び直す意欲だということが理解できます。
この記事では、ITを学び直す社会人のために、DX白書で明らかになった、企業のITリテラシー向上施策の実態と対策を詳報します。
記事のポイント
- 日本の多くの企業は、ITリテラシー教育に消極的
- 約25%の日本企業が、DX人材を必要としていない。
- ITリテラシーを習得するには、自ら学び直すのが得策。
- ITリテラシーを生かせる企業でないならば、転職の検討を。
DX白書2021とは?
DX白書2021とは、2021年10月に、ITパスポート試験などを実施する情報処理推進機構(以下、IPA)が発行した報告書です。
IPAは、これまでに、「AI白書」や「IT人材白書」を発行してきましたが、今回、初めてDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する白書を取りまとめました。近年、DXの重要性が広く認識されるようになったことが背景にあります。
今回のDX白書のポイントは、DXをめぐる動向について、日本とアメリカの企業の比較調査を実施したことです。
DXに関して、アメリカは日本に先行して取り組みが進んでいる、といわれています。
アメリカと日本の取り組み状況を比較することで、日本の置かれている現状や今後の指針を明らかにしよう、というのがDX白書の目的です。
DX白書は、日米企業のDXに関する取り組みを、「戦略」・「人材」・「技術」の3つ観点から比較して分析しています。
以下の記事では、DX白書をもとに、ITを学び直す社会人が目指すべき人材像について解説しています。
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「DXはしたい!」だけど、自社教育はしません!?
社会人のITの学び直しに関して、DX白書の調査で目を引くグラフを3つご紹介します。
このグラフを見ると、いかに日本の企業がITリテラシー教育に消極的か理解することができます。
まずは、こちらのグラフ。これは、日米の企業に、AIやデータサイエンスなどの先端技術に関する社員の学び直し(リスキリング)を実施しているかどうか、を尋ねたものです。

アメリカの企業では、「全社員対象での実施」が37.4%に上ったのに対し、日本の企業では、その割合はわずか7.9%。
逆に「実施していないし検討もしていない」は、アメリカの企業では、9.8%だったのに対して、日本の企業では46.9%に上りました。
続いて、2つ目のグラフ。これは、従業員のITリテラシーを向上させる施策の実施状況を尋ねたものです。

アメリカの企業では、54.5%が「社内研修・教育プランを実施している」と回答。一方で、日本企業では53.7%が「実施していない」と回答しています。
最後、3つ目は、こちらのグラフ。企業の変革を推進する人材のキャリアサポートに関する調査です。

日本の企業で「キャリアサポートを実施していない」割合は、27%という結果に。対するアメリカの企業は、7.3%でした。
この3つのアンケート調査結果からわかるのは、「日本の企業はDXを実現したいけど、自社教育には消極的」ということです。
つまり、「ITに関する学び直しは社員まかせ」。「自力でIT人材、デジタル人材、DX人材になってください」と言っているようなものです。
こうした現状を、DX白書を取りまとめたIPAは、以下のように総括し警鐘を鳴らしています。
日本企業では、先端技術に関する社員の学び直し(リスキル)における方針がない企業が5割近くある。キャリアサポートを実施している企業も少なく、組織的なスキル転換や学びの仕組みが整備されていない。自社のデジタル化においては、全社員のITリテラシーの向上が必要であるが、IT部門の専門性を高めることは多くの企業で行われているにもかかわらず、ITに深く関わっていない社員も含めた各社員のITリテラシーレベルの把握と、そのリテラシー向上には取組めていない。このままでは今後のデジタル化を組織として理解することは難しく、この理解のギャップがデジタル化を遅らせる要因となるだろう。企業変革に繋がる具体的なスキル目標の全社的な設定と、全社員のITリテラシー向上に対する人材育成の仕組みの一刻も早い整備が求められる。
出典:DX白書2021 ※太字・下線は筆者
近年の急速なデジタル化で、どのような業種のビジネスパーソンにも、ITに関するリテラシーが必要になっていることは、まぎれもない事実です。
しかし、そうした環境に適した社内教育を企業が整えるのには、まだ時間がかかりそうです。
そのために私たちができることは、自らで行う学び直しです。
自ら行動を起こすことが、自らの身を助けます。会社に頼ってばかりは、いられません。
DX白書2021から分かること
- 多くの日本企業はITリテラシー向上施策に消極的。ITを学ぶなら、社員自ら行動する必要がある。
約25%の企業は、DX人材は「必要ない」
もうひとつ、紹介したい重要なグラフがあります。
このグラフは、白書の中で分類しているDX人材の7職種について、どの職種の人材が不足しているか企業に調査した結果です。

このグラフで注目していただきたいのは、各職種における「自社には必要ない」と回答した日米企業の割合です。
7職種を平均して、日米企業間で比べると、以下のようになります。
DX人材は「必要ない」
アメリカの企業:10.2% 日本の企業:24%
なんと、日本の企業の約4分の1が、DX人材を必要としていないのです。
こうした認識を持った企業が多いのであれば、そもそもITに関する社内教育やキャリアサポートを充実させる企業が少ないことも納得です。
この結果から分かるのは、いくら社員がITを学び直しても、企業によってはIT人材を活用する環境が整っていない、ということです。
サッカー部にいながら、野球のスキルを磨くのと同じです。
あなたが所属している企業によっては、せっかくの努力が評価されない可能性もあります。
「うちの会社は、ITとは無縁」「DXなんて、絶対無理」
そう感じつつも、「ITを学び直したい!」と考えた方は、会社を変えることを考えた方が良いかもしれません。
DX白書2021から分かること
- 多くの日本企業はITリテラシー向上施策に消極的。ITを学ぶなら、社員自ら行動する必要がある。
- 日本企業の約25%は、DX人材を必要としていない。ITを生かせない企業にいるなら、転職の検討も。
まとめ
- 日本の多くの企業は、ITリテラシー教育に消極的。
- 約25%の日本企業が、DX人材を必要としていない。
- ITリテラシーを習得するには、自ら学び直すのが得策。
- ITリテラシーを生かせる企業でないならば、転職の検討を。