ITパスポート試験で回答が難しい問題のひとつが、「損益分岐点売上高」に関する問題です。
損益分岐点売上高とは、売り上げた金額と費用が一致している状態のこと。
損益分岐点売上高を下回れば赤字となり、上回れば黒字となります。利益を出さなければならない企業にとっては、とても重要な情報です。
この重要な情報をつくる方法を学ぶのが、損益分岐点に関する問題というわけです。
損益分岐点を出すには公式があります。
公式
損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)
どの参考書にも、必ず出てくる重要な公式です。しかし、実際の試験では、公式がそのまま出てくるわけではありません。
言葉や表現を変えて、この公式の成り立ちを理解しているかが問われます。
重要なのは公式を覚えることではなく、損益分岐点を導く仕組みを理解することです。
記事のポイント
- 企業経営における損益分岐点の重要性を理解する
- 変動費とはなにか理解する
- 公式に頼らずに損益分岐点を導けるようにする
なぜ「損益分岐点」が必要か
まず、なぜ「損益分岐点」が事業において重要なのか、考えてみましょう。
損益分岐点を情報化しておく理由は、企業が利益を出すための行動目標を明らかにするためです。
例えば、あなたが、次のような条件でラーメン店を始めようとしているとします。
- ラーメン1杯の値段:600円
- ラーメン1杯の材料費:300円
- 月額の店舗賃料(駅前の土地):20万円
駅前のラーメン店でありながら、値段もリーズナブルです。
この条件で、利益をあげるために、どのくらいの作業量や成果が必要になるか、想像できるでしょうか。
この条件で、費用と利益がトントンになる損益分岐点売上高は40万円。これに到達するには月に666杯、1日に28杯ほどの売り上げる必要があります。
1日8時間営業だとすれば、1時間に3∼4杯です。
損益分岐点売上高を出すことによって、売り上げ目標の指針をつくることできます。
しかし、これなら十分に達成できる目標でしょうか。
すでに説明した通り、これは費用と利益がトントンになる損益分岐点売上高です。赤字でもなければ、黒字でもないということです。
実際には、生活ができるだけの利益(黒字)を確保しなければなりません。
仮に月30万円の利益を確保しようとすれば、さらに月に1000杯。損益分岐点売上高を達成するための1日28杯にプラスして、さらに1日42杯は売り上げる必要が出てきます。
- ラーメン1杯の値段:600円
- ラーメン1杯の材料費:300円
- 月額の店舗賃料(駅前の土地):20万円
- 損益分岐点売上高:40万円(月666杯)
- 目標利益:30万円
- 目標利益を達成するための売上高:100万円(月1666杯)
すると、利益を30万円確保するためには、1日70杯。1日8時間営業だとすれば、1時間に9杯ほど売り上げる必要があることが理解できます。
常に客が入って、ラーメンを作り続けていないと達成は難しそうです。これは、現実的な目標でしょうか。
この条件の達成が難しいのであれば、ラーメンの価格を高くしたり、もっと家賃の低い場所での出店を検討したりと、対応を変える必要があります。
このように損益分岐点売上高を計算して情報化することで、未来のことが具体的に想像できるようになります。
これが、損益分岐点売上高を把握しておくことの効果です。
モノを売るには、まず商品を作ったり仕入れたりしなければなりません。
新しいサービスを始めるには、人を雇う必要も出てきます。
「売る」という活動の前に、企業は様々なコストをかけていて、最初は利益はなく、費用だけがかさんでいる状態なのです。
こうした状態だからこそ、「どのくらい売れれば利益になるのだろう?」という疑問が湧いてきます。その答えを出すのが「損益分岐点売上高」なのです。
会計の基礎知識
損益分岐点売上高を計算する前に、会計の基礎用語を押さえる必要があります。
会計の基礎用語
- 売上高:代金として受け取った金額
- 変動費:販売するモノやサービスの量に応じて、増加する費用
- 固定費:販売するモノやサービスの量にかかわりなく、発生する費用
- 利益:売上高から、変動費+固定費を差し引いた金額
ここで難しいのは、変動費と固定費の理解ではないでしょうか。
これらは一般的には「費用」とひとくくりにされるものです。しかし、その費用と売上高の関係性に着目すると、変動費と固定費に分けることができます。
変動費は、モノやサービスの売り上げ高に連動して変わる費用のことです。例えば、ラーメンが売れれば売れるほど、材料費は増加します。
一方で、固定費は、モノやサービスの売り上げ高に連動して変わることはありません。例えば、スタッフの人件費や家賃などです。最悪の場合、売り上げがゼロでも、人件費や家賃は発生します。
単純に「費用」といっても、よく吟味すると、「変動費」と「固定費」に分けることができる。
これが、会計の重要なポイントです。
「売上高」、「費用(変動費∔固定費)」がわかれば、「利益」を計算することができます。
利益の計算方法
- 売上高-費用(変動費∔固定費)=利益
この利益の計算方法は、損益分岐点売上高を計算するために重要な考え方になります。
損益分岐点売上高の計算方法
それでは、冒頭で例に挙げたラーメン店の損益分岐点売上高を求めていきましょう。
- ラーメン1杯の値段(売上高):600円
- ラーメン1杯の材料費(変動費):350円
- 月額の店舗賃料(固定費):20万円
- 損益分岐点売上高:?
利益の求め方は、次の通りでした。
利益の計算方法
- 売上高-費用(変動費∔固定費)=利益
損益分岐点売上高とは、赤字でもないし、黒字でもない。つまり利益がゼロということです。式で表すと以下の状態です。
- 損益分岐点売上高-費用(変動費∔固定費)=0
この式を解けば、損益分岐点売上高を計算することができます。言い換えれば、損益分岐点売上高とは、売上高と費用が一致するということです。
- 損益分岐点売上高=変動費∔固定費
では、変動費と固定費に、具体的な数字を代入していきます。
損益分岐点売上高を計算するラーメン店の固定費は、店舗賃料の20万円でした。
- 損益分岐点売上高=変動費∔20万円
変動費はラーメン1杯につき、350円でした。
しかし、「変動費=350円」と勘違いしてはいけません。変動費は、ラーメンの売り上げに比例して増える費用のことでした。350円だけで収まりません。
でも、売り上げが分からないと、トータルの変動費がいくらかかるのか、わかりません。そこで重要になるのが、「変動費率」という考え方です。
変動費率とは、売上高に占める変動費の割合のことです。どれだけ売り上げても、変動費率は一定になります。
変動費率
- 売上高に占める、変動費の割合のこと
この考え方を利用すると、ラーメン店の変動費は以下のように表すことができます。ラーメンをどれだけ売り上げても、その売上高に変動費率をかければ、変動費がわかります。
- 損益分岐点売上高=(損益分岐点売上高×変動費率)∔20万円
今回のラーメン店では、1杯の価格が600円、1杯の材料費が300円でした。つまり、変動費は300円÷600円で、0.5となります。
- 損益分岐点売上高=(損益分岐点売上高×0.5)∔20万円
これで分からないのは、損益分岐点売上高だけになりました。後は、この式を解くだけです。損益分岐点売上高をXとして、以下のように式を展開していきます。
- 損益分岐点売上高=(損益分岐点売上高×0.5)∔20万円
- X=0.5X∔200000
- (1-0.5)X=200000
- X=200000÷0.5
- X=400000
これで損益分岐点売上高(X)は、40万円と求めることができました。
これが企業が経営をする上での、重要な数字になります。ITパスポート試験でも必ず問われる重要な問題です。