ITの知識を習得するために、ITパスポート試験と基本情報技術者試験のどちらを受験すればよいのか、迷っている方も多いのではないでしょうか。
この2つの試験は、学習内容が重なっている部分も多いですが、対象とする受験者像が明確に異なっています。
ITパスポートは、ITツールを活用する人向け(ユーザー)の試験で、基本情報技術者試験はITツールを作る人向け(エンジニア)の試験です。
「ITリテラシーを高めたいけど、エンジニアを目指すわけではない」という人は、ITパスポート試験がおすすめです。
あなたがエンジニアを目指すのであれば、基本情報技術者試験から受験してみてもよいかもしれません。
ITツールを使うだけのユーザーにとっては、基本情報技術者試験はやや難易度が高く、ITツールを作るエンジニアを目指す人にとっては、ITパスポートは基本的すぎる恐れがあります。
この記事では、ITパスポート試験と基本情報技術者試験の違いを、3点に絞って、解説します。
記事のポイント
- ITパスポートは、ITツールを活用するユーザー向けで、基本情報技術者試験はITツールを作るエンジニア向け
- 対象の受験者像、出題形式、難易度に違いある
- 自分がユーザーなのか、エンジニアを目指すのかによって、適切な試験を選ぼう
違い①対象の受験者像
ITパスポート試験と基本情報処理技術者試験は、どちらも「情報処理の促進に関する法律」に基づき経済産業省が認定する国家試験「情報処理技術者試験」の1区分です。情報処理推進機構が実施しています。
情報処理技術者試験には、以下の13区分に分かれています。

この図をみると、ITパスポート試験と基本情報処理技術者試験が対象とする受験者が、明確に異なっていることがわかります。
ITパスポート試験はITツールを活用する「すべての社会人」が対象です。一方で、基本情報技術者試験は「情報処理技術者」、つまりITツールを作り出すエンジニアを対象にしています。
それぞれの試験の対象者が担当する業務について、情報処理推進機構は、以下のように説明しています。
受験者の想定業務
ITパスポート試験
- 利用する情報機器及びシステムを把握し、活用する
- 担当業務を理解し、その業務における問題の把握及び必要な解決を図る
- 安全に情報の収集や活用を行う
- 上位者の指導の下、業務の分析やシステム化の支援を行う
- 担当業務において、新しい技術(AI、ビッグデータ、IoT など)や新しい手法(アジャイルなど)の活用を推進する
基本情報技術者試験
- 需要者(企業経営、社会システム)が直面する課題に対して、情報技術を活用した戦略立案に参加する
- システムの設計・開発を行い、又は汎用製品の最適組合せ(インテグレーション)によって、信頼性・生産性の高いシステムを構築する。また、その安定的な運用サービスの実現に貢献する
明確に違うのは、ITパスポート試験の受験者には、IT戦略の立案やシステムの開発など、ITを作る業務は想定されていないことです。
ITパスポート試験の受験者が担当する業務として想定されているのは、あくまでITの利活用。既存のオフィスツールなどを、いかに効果的に運用していくか、です。
「ゼロからシステムを作る」という、エンジニアに求められる業務は想定されていません。
一方で、基本情報技術者は、システムを作り上げるエンジニアを対象にした試験です。
一口にIT人材といっても、大きく分けて、「ITを作る人」と「ITを活用する人」の2種類に分けられます。
基本情報技術者試験はITを作る人向け、ITパスポート試験はITを活用する人向け。
これは2つの試験を分ける、大きな違いです。
違い②出題形式の違い プログラミングの知識も
大雑把に捉えれば、ITパスポート試験と基本情報技術者試験の学習範囲は、ほとんど同じです。
ですが、受験者の対象が違うことで、基本情報技術者試験では、ITパスポート試験よりもさらに細かい知識が求められます。
さらに、ITパスポート試験と基本情報技術者試験では、試験の出題形式も異なっています。
出題形式
ITパスポート試験
- 出題数100問で四肢択一形式(4つの回答から1つを選ぶ)。すべて小問
- ストラテジ系 32 問、マネジメント系 18 問、テクノロジ系 42 問
- 残り8問は、今後の試験の参考にするための問題で、採点対象外
基本情報技術者試験
- 午前試験と午後試験がある
- 午前試験:出題数80問で四肢択一形式(小問)
- 午後試験:長文読解問題で、回答の選択肢が4つ以上ある多肢選択形式。11問出題され、5問を選択。
- 午後試験は、プログラミング言語によるコーディングに関する問題は、必須解答問題。
特に大きく違うのが、情報処理技術者試験では、長文読解形式の応用問題が出題される点です。
ITパスポート試験は、いわゆる一問一答形式で、用語の意味や解法を暗記すれば対応できるものです。
こちらが、ITパスポート試験の過去問題。
選択肢は4つ、設問も長くて4行程度です。
この形式は、基本情報技術者試験の午前問題も共通で、問われる内容もITパスポート試験とほぼ同じです。
ただ、基本情報処理技術者試験で鬼門となるのが、午後試験です。
午後試験は暗記では解くことができません。基本を理解した上で、試験の中で設定された状況に当てはめる応用力が試されます。
こちらが、基本情報技術者試験の午後問題です。
ITパスポート試験との違いが、お分かりいただけたでしょうか。
基本情報技術者試験の午後試験では、エンジニアとして現場で想定されるシーンをどう解決していくかが、問われます。
様々な状況に直面するエンジニア向けの試験であるからこそ、こうした応用力が試されます。
しかも、こうした長文読解問題を150分の間に5問解かなくてはなりません。スピードも求められます。
特に、ソフトウェア開発に関する問題では、「C,Java,Python,アセンブラ言語,表計算ソフト」のプログラミング言語を選ぶ形式になっていて、実際のコーディング知識も必要になります。
この辺りもエンジニア向けの試験ならでは、といったところで、ITパスポート試験とは、別の試験対策が必要になります。
違い③試験の難易度
3つ目に挙げるのは、合格率です。以下に、ITパスポート試験と基本情報技術者試験の合格率をまとめました。
合格率
ITパスポート試験
- 受験者数(2020年度):13万1788人
- 合格率:58.8%
基本情報技術者試験
- 受験者数(2021年度):8万5428人
- 合格率:40.7%
ITパスポート試験の合格率が60%近くある一方で、基本情報技術者試験の合格率は40%です。
基本情報技術者試験に関しては、合格率が40%を超え出したのは、2020年度以降の話です。それ以前は、合格率は25%前後で推移していました。
基本情報技術者試験の方が、一般の人よりもITの知識に明るいエンジニアの卵の受験割合が高いと考えられます。
それでも合格率が40%ほどですから、ITパスポート試験よりも基本情報技術者試験の方が難しい試験であると言えます。
経済産業省は、情報処理技術者試験を難易度ごとに分類していて、ITパスポート試験はスキルレベル1,基本情報技術者試験はスキルレベル2にあたるとしています。
基本情報技術者試験は、ITパスポート試験の上位試験という位置づけです。