用語解説

「企業をデータの油田に変える」 基礎から分かるDXの本質

「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」という言葉を聞く機会が増えてきました。

各業界の企業でDX推進を掲げる部署が立ち上がり、色々な取り組みをしているようです。

でも「いきなりDXって言われても、何のことか分からない」

「デジタル化と何が違うの?」

そんな疑問を持つ方も多いかと思います。

DXとデジタル化は同じ意味ではありません。

違いを明確にするポイントは「ビジネスの視点があるかどうか」です。

DXはデータを活用して新しい価値の創造やビジネスモデルを変えることであり、デジタル化はその手段という位置付けです。

「21世紀の石油」とも言われるデータ。

DXを実現することで「企業活動をデータの油田」に変えて成長することが可能となります。

この記事ではDXの本質について掘り下げて解説します。

DXの定義

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は複雑な概念で、人によって解釈がさまざまです。

「DXとはなにか」を説明した記事は多くありますが、それぞれ内容は異なっています。

こうした中で、経済産業省はDXを以下のように定義しています。

<定義>

 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインVer.1.0」

一方、ITパスポート試験などを実施する情報処理推進機構は以下のように定義と要件を示しています。

<定義>

 デジタル技術でビジネスモデルや働き方を変えること

<要件>

 データとデジタル技術で、業務の仕組みやサービス、事業モデルを新しく変えて、ユーザーの不満や課題を解消する。それでこれまで提供できなかった便利さを提供すること

情報処理推進機構「知って学んで実践しよう!DX・アーキテクチャ解説映像(入門編)」

デジタル化=DXではない

DXの定義はいくつもありますが、押さえておきたいのが「DX=デジタル化ではない」ことです。

経産省のDXの定義には「デジタル技術を活用して」、情報処理推進機構の定義には「デジタル技術で」という表現があります。

ここからわかるのは「デジタル化はDXを実現するための手段」ということです。

例えば、紙の資料を廃止して、すべてPDFなどデジタルデータで管理する。これはデジタル化です。

ただ、これだけではDXを達成したとは言えません。

DXでは紙のデジタル化をした上で、さらに業務の変革や新しい価値の創造を目指します

デジタル化については、下記の記事でも詳しく解説しています。

DXを実現するには 5つのポイント

情報処理推進機構はDXのポイントとして、次の5つを挙げています。

DXを実現するための5つポイント

▶ユーザに新しい価値を生むこと

▶デジタル技術で課題を解決すること

▶トップが経営の変革をリードすること

▶事業モデルの変革

▶業界を横断して実践

情報処理推進機構「知って学んで実践しよう!DX・アーキテクチャ解説映像(入門編)」

5つのポイントから分かるのは、「DXを達成するための具体的な条件は企業それぞれで違う」ということです。

「何が新しい価値なのか」、「何が課題なのか」。

これらは業界や企業によって異なります。

100社あれば100通りのDXの形があるということです。

DXの背景…「デジタル・ディスラプション」

ところで近年、なぜこんなにもDXの必要性が高まっているのか。

その背景にあるのがデジタル技術を駆使したグローバル企業の台頭です。

経産省はDXが必要な背景を以下のように説明しています。

 あらゆるモノがつながる IoT 等を通じて活用できるデータが爆発的に増加し、また、AI、クラウド、マイクロサービスやクラウドを活用したアジャイルアプリケーション開発、ブロックチェーン、AR/VR 等データを扱う新たなデジタル技術の活用の可能性が広がっている。こうした中で、あらゆる産業において、これらの新たなデジタル技術を活用してこれまでにないビジネス・モデルを展開する新規参入者が登場し、デジタル・ディスラプションと呼ばれるゲームチェンジが起きつつある。

経産省 『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

ディスラプションとは英語で「崩壊」を意味します。

つまり、デジタル・ディスラプションとは「デジタル技術を使った破壊的な変革」を指します。

このような変革をもたらす新規参入者があらゆる産業で登場し、従来の産業の在り方やビジネスモデルを根底から変えている(ゲームチェンジ)というのです。

その代表的な例が動画配信サービスを手かげる「ネットフリックス」。会員数は全世界で2億人を超える巨大企業です。(2021年4月時点)

ネットフリックスの成長の源をされているのが、徹底したユーザー分析によるデータ活用です。

ネットフリックスでは1日に1億4000万時間のコンテンツが視聴されているといいます。

その中で、視聴者がどのコンテンツをいつ見始めて、どの部分で視聴を止めたかなど「視聴者の行動」をすべてデータ化し、番組の企画や制作などに生かしています

創業当時、ネットフリックスはインターネットでDVDのレンタルを受け付けて、後日郵送するというサービスを行っていました。

ただ、これではユーザーはすぐにDVDを視聴することができませんし、ネットフリックスは「視聴者の行動」を把握することもできません。

DVDのレンタルをデジタルで行うことで、即座にユーザーに作品を届けるという価値を提供することに成功し、「視聴者の行動」を詳細に把握することも可能となりました。

ネットフリックスがいつまでも郵送でDVDレンタル業をやっていたら、いまのような巨大企業にはなっていなかったでしょう。

まさに、デジタル技術で自らをトランスフォーム(変形)したことで、DVDのレンタル業界にデジタル・ディスラプションを起こしたのです。

ネットフリックスに限らず、こうしたDXによって成長を続ける巨大企業は、いまあらゆる業界で誕生しています。

「2025年の崖」 年間12兆円の経済損失?

ただ、いざDXを実現しようと思っても、日本国内の現状はそう甘くないようです。

それを端的に表現したのがDX推進を掲げる経産省が提起した「2025年の崖」問題です。

経産省は国内の多くの経営者がDXの必要性を理解しているものの、社内の既存システムが事業部門ごとに構築されるなどデータを活用できる体制になっていないと指摘。

この問題を放置すれば2025年には経済損失が最大で12兆円に上る可能性があると試算しています。これは現在の3倍にあたる額です。

データは21世紀の石油」とも言われ、データをいかに活用していくかが企業の成長のカギとなっています。

日々の企業活動をデータを得る「油田」に変えられるのか。その成否がDXを実現できるかどうかにかかっていると言えそうです。

まとめ

▶DXはデジタル技術で新しい価値を生むこと。デジタル化はDXの手段。

▶あらゆる業界でDXを実現した企業が破壊的な変革をもたらしている。

▶DXは「企業をデータの油田」に変えること